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『社友』の「人事往来」欄(八七年一○月号)を見てみると八七年五月から七月までに結婚した三六人のうち半数以上の一九人が、社内あるいはグループ企業の社員が相手だった。
Nマンの現実的な結婚相手への望みは、社内事情を理解し引越しが上手な奥さんということのようだ。
それにしても、N商法は、客の弱味に付け込んだ、なんともすごい技巧だ。
むろん、無断売買、過当売買と、顧客をえじきにするあの手この手は、〈投資者保謹〉をうたっている証券取引法に反する。
そのすべてが、同法第五八条の定める〈禁止される不正取引行為〉で、〈有価証券の売買その他の取引について、不正の手段、計画又は技巧をなすこと〉に該当する。
セールスマンならだれしも、自分の相場観で客が儲かるような仕事をしたい。
自分の相場でやっているときには、クレームもつかない。
相場を知っているベテランのセールスマンほど、この気持ちは強い。
だが、N証券のなかでは通用しない。
会社の営業方針のもとに、全社一丸となって、不正取引行為でもなんでもやってしまえということになる。
「赤信号、みんなで渡ればこわくない」というやつだ。
そのためというわけではないが、兜町かいわいの通りでは、赤信号のうちにつぎの青信号を先読みして車道に足を踏み出すせっかち人間が、東京のどこよりも多いようだ。
N社員の酒の席では、昔懐かしい軍歌「同期の桜」が必ず飛び出す。
それも、「ともに散りましょ、Nのために」といった具合に、忠誠を尽す相手は変わっている。
会社の方針に反して客のために儲けても、上司は「おまえは非国民だ」と決め付ける。
N証券は若手抜擢主義で、とくに「新人類」の研修と教育に力を入れている。
「研修証券」ともいわれる。
この「研修証券」が生み出すのは、ノムライズム、つまりノルマイズムで武装された「新人類」だ。
豪勢な高輪研修センターの完成も、「研修証券」の象徴だ。
だが、セールスマンとして配置されての実地訓練、OJT(オンザ・ジョブ・トレーニング)が、最も身にこたえる。
前線のセールスマンを指揮し、その卵たちを教育していくのが、全国の支店、営業店に配置された営業課長だ。
「社友」の「アンケート企画営業課長に聞く」(八七年一○月号)は、この点で興味深い。
それには「Nパワーの核が見える!」というタイトルがついている。
N証券の預り資産や手数料をふやしていく営業の〈核〉が、営業課長というわけだ。
このアンケート企画の前文は、〈常に先頭に立って日夜アタックし続けているのが、営業課長〉であるというわけで、〈Nスピリッッにあふれる営業課長の実像やいかに?〉と、アンケートの結果からそれなりに〈実像〉を分析している。
回答を寄せた営業課長は、〈営業畑十五年ほどのベテラン、「歴戦の兵」といったところ〉という。
回答営業課長の平均年齢は三七・七歳。
〈日本人事行政研究所の調査によると、現在の日本企業の課長の平均年齢は四三歳〉だから、〈約五歳若い〉という。
若手抜擢の結果だといいたいのだろう。
そういえば、大運動会のプログラムにも、役員が登場する「役員さん、若い若い」という種目があった。
N証券の若手登用は事実だが、さきに見たように多くは「死んだ客」を何人生み出すかのノルマィズムが評価の基準になる。
だいたい三五歳前後で課長になり、年収は一五○○万円になる。
ためしに、私の仕事そのものについて、〈部下を叱ったあとのフォローは?〉という問いでは、〈圧倒的に「酒」〉となっている。
〈週に何日酒を飲みますか?〉では、〈七日〉が三二%を占め圧倒的。
部下の教育は、叱って飲ませてたたきあげる、といったところだろう。
アンケートは、〈彼ら〔若手〕を一人前の営業マンに成長させるのが、営業課長の腕の見せどころ〉というので、〈部下へのアドバイスの方法〉について、三つのタイプに分類している。
一つ目のタイプは、「悩む気をなくすくらい外交させる」「営業の基本動作、生活態度を見直させる」という「モーレッ型」。
さながら、「鬼軍曹」といったところ。
二つ目のタイプは、〈若い部下とともに、とことん考え合う〉という〈分析型〉という。
だが、神経戦配ともいう。
また、〈日曜日の夜の過ごし方は?という問いには、ほとんど全員が、「翌日(月曜日)の銘柄、あるいは翌週の仕事に思いをめぐらせている」と答えている〉〈営業課長の仕事は、すでに日曜日の夜から始まっている〉と述べている。
年収一五○○万円の代償は、家族も犠牲にし、すべてが仕事づけということのようだ。
妻に「三五歳の課長が年一五○○万円」とだけいうと、「へーえ、年に一五○○万円も、何に使うんでしょうね」と、わが家の台所が知れる言葉が返ってきた。
このアンケートでは、〈Nの営業課長の小遣いは、平均で十一万四○○○円〔月〕〉になっている。
S銀行調査の上場企業の課長平均額五万六○○円の倍以上だが、Nの場合は、〈仕事上(?)、社内、社外のつきあい代を考えるとそれほど多いとはいえません〉と書いている。
〈仕事の武器としてであろうか、ゴルフを趣味にしている人は八六%と多く、休日の家族との板ばさみになっていないかどうか少々心あるとき、私が講師として呼ばれ、新潟市内の会場で下手な話を終わったあとだった。
話を聞いていた一人がN証券新潟支店法人課課長の肩書のある名刺を差し出した。
講演会を主催したのが労働団体だっから、一瞬、とまどった。
彼がT豊秋だった。
T課長は、「まともないい仕事がしたいから労働組合に入ったんです」と、明言する。
年収一五○○万円の課長がどうしてまたと、多くの人は思うだろう。
N証券でも、前代未聞だった。
全国の労組でも、組合員の範囲、つまり組合員資格があるのはせいぜい係長クラスまでというのが一般的となっていでつめる〈鬼軍曹〉といえる。
三つ目は、〈「同伴外交をし、模範を見せて激励する」まさに山本五十六元帥スタイルの率先垂範〉という。
営業課長があげる〈座右の銘〉として、〈考えさせるものがあった〉と、〈率先垂範11「やって見せ、言って聞かせ、やらせてみて、誉めてやる」という山本五十六元帥の言葉〉をあげている。
N証券では、しばしば軍隊用語や軍人の格言などが登場する。
営業課長が〈期待する部下像〉も、〈仕事をみずから創り上げる工夫をし、最後にお客様を踏み切らせる力を持つ、強い営業マン〉だという。
鬼軍曹課長や山本五十六課長にしごかれて、部下のセールスマンたちは、客に「買い」と「売り」を強引に迫る〈強い営業マン〉に仕立てられる。
しかし、ここに見た「社友」のアンケート自体が、「研修証券」の教材であって、社員教育の役目を果たしている。
部下のセールスマンをしごく鬼軍曹課長や山本五十六課長は、年収一五○○万円の代償として会社が期待する「強い営業課長」像といえる。
だが、T課長の労組加盟とその加盟の理由とが、いまのN証券の営業姿勢とセールスマンや課長などの職制がおかれている状態を象徴している。
しかも、T課長は、労組創立以来の先輩委員長に代わって、八六年には委員長に就任している。
会社側は、「課長は管理職だから」と、委員長同席の労組との団体交渉を長いあいだ拒否してきた。
こんな団交拒否の理由も前代未聞だろう。
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